相続人の廃除とは?理解しておきたい法的要件

相続人の廃除という言葉は聞いたことがない方が多いかと思います。
この記事では、相続人の廃除とは何を意味するのか、そしてその法的要件について詳しく解説します。
相続人の廃除を検討している方、または相続に関する深い知識を身につけたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次

相続人廃除の基本知識

相続人の廃除とは

相続人の廃除とは、相続発生時に特定の相続人を法律上の相続から除外することを意味します。
除外するとは、その特定の相続人から相続人としての地位を奪うことを意味しており、最初から相続人ではなかった扱いとなります。
そのため、遺産分割で財産を取得できないのはもちろん、遺留分の請求もできなくなります。

廃除する際は、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続に関してこのような重大な効力を持っているため、相続人の廃除は後述する一定の事由が生じている場合にのみ認められます。
被相続人が、相続人に対し、嫌いだから遺留分も渡したくないとの理由だけでは廃除はできません。

廃除を申立てることができる者

家庭裁判所に対して、相続人の廃除を申し立てられるのは、被相続人である本人のみとなります。

廃除の対象となる者

廃除の対象となるのは、民法892条で定められており、遺留分を有する推定相続人と規定されています。
何故遺留分を有する者に限っているかというと、遺留分を有しない相続人に財産を渡したくない場合、遺言書でその内容を記せば簡単に実現できるためです。遺留分を有する相続人に対して、遺言書で財産を渡さない旨を定めても、遺留分侵害額請求を受け、遺留分相当額を支払わなければならない可能性があります。そのため、法的な要件を満たした場合のみですが、相続人の廃除をすることで、その者に対して遺留分も支払わなくてよくなります。

廃除による代襲相続の発生

相続人の廃除を受けると、対象の被相続人に対する相続権を失います。
ただし、廃除された相続人に子や孫などの直系卑属がいる場合、その者たちは「代襲相続」として被相続人の相続権を継承することとなります。

相続人廃除は取り消せる

一度行われた相続人の廃除であっても、被相続人であれば、いつでも取り消すことができます。

推定相続人と仲違いをしてやむを得ず廃除の手続きを踏んだものの、その後和解することができた場合、生前に廃除を取り消したい場合、被相続人は家庭裁判所に対し、廃除の審判の取り消しを申し立てることで取り消すことができます。遺言書により、廃除を取り消す場合は、その旨を記載しておくことで、遺言執行者が家庭裁判所に対し、同内容の申立てを行い、取り消すことが可能です。
遺言書への具体的な記載内容は後述いたします。

廃除ができる法的要件

民法上の規定

相続人の廃除には明確な法的根拠が必要です。民法において、相続人を廃除できる具体的な条件が定められています。

第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

少し抽象的な表現もあるので、具体的に示します。

相続人が、被相続人に対し、暴言などの重大な侮辱をしていた
相続人が、被相続人に対し、繰り返し暴力や虐待をしていた
相続人が、被相続人に対し、財産を無断で売却・処分した
窃盗や暴行などで何度も服役をしている
被相続人の配偶者に浮気などの不貞行為がある

上記一例ですが、このような要件を満たしている相続人を廃除することができます。

必要な手続き

相続人を廃除するためには、遺言による指定や家庭裁判所への申立てなど、正式な手続きが必要となります。

家庭裁判所が廃除の要件を満たしているか判断するのですが、相続人との家族関係を修復不可能なほどに壊したかどうかという点を考慮し決められます。

相続人廃除の手続き

相続人の廃除は、廃除の手続きをとるタイミングにより手続き自体が異なります。
被相続人が自身で生前に行う「生前廃除」
死後に遺言執行者に行ってもらう「遺言廃除」の2つがありますので、それぞれ解説いたします。

生前廃除

被相続人自身が、推定相続人を相続から排除するために、家庭裁判所へ推定相続人廃除の審判を申立てます。

申立てには、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、推定相続人廃除の審判申立書など必要書類を揃えて提出する必要があります。
審判の結果、推定相続人廃除が認められた場合、家庭裁判所から審判書謄本と確定証明書が交付されます。

これらの書類と推定相続人廃除届を10日以内に被相続人の本籍地がある役所窓口へ提出することで、推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載されます。

遺言廃除

被相続人の死後、遺言書によって相続人を廃除する場合こちらの方法となります。
この場合は、遺言書により指名された遺言執行者にて手続きが進められるかたちで、遺言執行者が家庭裁判所に対し申立てを行います。

推定相続人廃除の審判申立書を家庭裁判所に提出し、審判を受けます。
以下の流れは生前廃除と同一になります。

遺言廃除の注意点

遺言廃除に関しては、注意すべき点があります。それは遺言書自体への記載内容です。
被相続人の代わりに申立てを行う、遺言執行者に廃除の理由をしっかりと伝えておくことが必要です。

◾️遺言執行者が誰か(記載だけでなく、実際に事前にお願いをして了承を得ておく)
◾️廃除を希望する推定相続人の氏名
◾️相続人廃除を希望する理由(虐待や暴言暴力があった、財産を無断で処分されたなど具体的にわかるように記載)

遺言書の具体的な記載方法

遺言廃除をする旨の内容

第1条 遺言者は、長女〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)を相続人から廃除する。以下の廃除事由となる具体的事実に記載のとおり、遺言者に重大な侮辱を加え、その他の著しい非行を行ったことにより、相続人から廃除する。

          ~具体的な事実、エピソードを記載~

第2条 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。
 住 所 千葉県千葉市稲毛区萩台町664-135
 職 業 行政書士
 氏 名 緑川 隆太
     昭和63年7月12日生

廃除を取り消す旨の内容

第1条 遺言者は、長女〇〇〇〇(昭和〇〇年〇月〇日生)についての相続人からの廃除を取り消す。
第2条 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。
 住 所 千葉県千葉市稲毛区萩台町664-135
 職 業 行政書士
 氏 名 緑川 隆太
     昭和63年7月12日生

まとめ

相続人の廃除は、相続において重要な選択肢の一つですが、その手続きは家庭裁判所も関わるため複雑で、法的要件を満たす必要もあります。
相続人廃除を検討する際は、専門家のアドバイスを受けることが非常に重要です。家族間の争いを避け、円滑な相続手続きを進めるためにも、正確な情報と適切な準備が必要です。

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